広告代理店在勤時代から独立まで、商法、会社法、景品表示法、薬事法など、業務に関連する各種法令をつまんで学んではいたものの、法学部でもなかった為、きちんと学ぶことがなく、今になり東京商工会議所「ビジネス実務法務検定」を活用し、改めて学んでいます。

ではなぜWEB領域の者が法務を学ぶ必要があるのか。

それは各種法令をふまえてWEBサイトはじめ広告を制作しなければならいことが多々あるからです。

 

例えばECサイトの場合のカート。

なぜ『入力』『確認』『エラー』『完了』と分けなければならないのか。

また『完了』後、なぜ『購入完了メール』を送信しなければならないのか。

おわかりになりますでしょうか?

この答えは『契約』と『意思表示』を分けて考える必要があるので今回は省略し、次回にします。

 

ここでビジネス実務法務検定試験2級の問題を考えてみましょう。

事業者が商品を販売するためにインターネットのホームページ上に商品を掲載しており、これを見た消費者が、重大な過失によるコンピューターの操作ミスで意図しない商品購入の意思表示をしたため、要素の錯誤を理由に該当意思表示の無効を主張した。この場合において、事業者は、その商品購入画面上に消費者の商品購入の意思表示を行う意思の有無を確認するために必要な措置を講じていたときは、消費者に重大な過失があったことを理由に、売買契約は無効ではない旨を主張することができる。 【第37回 ビジネス実務法務検定2級試験より】

○(正解)でしょうか?それとも×(不正解)でしょうか?

答えは、○(正解)です。

 

上記は『電子消費者契約法』に関する問題です。

電子消費者契約法とは、電子商取引などにおける消費者の操作ミスの救済、契約の成立時期の転換などを定めたもので、平成13年12月25日に施行されました。

パソコンやインターネットの普及につれ、パソコン操作を誤ったりすることによる消費者トラブルが増えていることを背景にした法律です。

『無料』画面だと思ってクリックしたら『有料』で代金を請求されてしまったというケースや、1つ注文したつもりが2つ注文したことになっていて、同じものが2つ送られてきたというトラブルが発生した場合、事業者がそれらを防止するための適切な措置をとっていないと消費者からの申込み自体が無効になります。

下記は『電子消費者契約法』条文になります。

第1条(趣旨)

この法律は、消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法(明治二十 九年法律第八十九号)の特例を定めるものとする。

近年の電子商取引の拡大等に伴い、電子的な方法を用いた新たな契約締結の手法が増加してきている。これらの契約をめぐる紛争は、民法に規定する基本ルールによって法的に処理されることとなるが、それのみでは対応することが困難な諸問題が現在発生してきている。

本法においては、電子商取引の簡便性・ 迅速性といったメリットを最大限生かすためにも、国際的な動向を踏まえつつ、①消費者の操作ミスによる錯誤、②隔地者間の契約の成立時期について、民法の原則を修正する新 たな立法措置を講じており、本条においてそれを明らかにしている。

 

では解答を詳しく説明していきます。

上記問題では、消費者は下記の主張をしています。

消費者が重大な過失によるコンピューターの操作ミスで意図しない商品購入の意思表示をしたため、要素の錯誤を理由に該当意思表示の無効を主張した。

事業者側は、下記を主張しています。

事業者は、その商品購入画面上に消費者の商品購入の意思表示を行う意思の有無を確認するために必要な措置を講じていたときは、消費者に重大な過失があったことを理由に、売買契約は無効ではない旨を主張することができる。

下記『電子消費者契約法』の一文をふまえると、事業者側が売買契約は無効ではない旨を主張できることが言えます。

事業者がそれらを防止するための適切な措置をとっていないと消費者からの申込み自体が無効になります。

よって、○(正解)となります。

 

このように、ECサイト事業者もさることながら、ECサイト制作に携わるエンジニア、コーダー、デザイナー、ディレクター、プロデューサー、営業までの受託側も知らなければ、結果ECサイト事業者=クライアントへ迷惑をかけることになります。

受託側からすれば、「弁護士ではないから、クライアントが知っているべきで、うちの範囲ではない。その分の対価をもらえない(知っていることで、デザイン費にプラスでもらえた試しがない)から。」と言えるでしょう。

これはもちろん委託側(EC事業者)が知らなければならなりません。

理由は、知らない=リスクがある状態で、最後は自身に降りかかってくるからです。

仮に、知らない制作会社Aのフォーム制作費が10万円だとします。知っている制作会社Bのフォーム制作費は20万円だったとします。

初期コストだけ考えればAを選ぶでしょう。

では制作会社Aのフォームに『要素の錯誤=誤解を招く文章やデザインなど』が存在した場合どうでしょうか?

小額訴訟をされた場合、金額が10万円以下であれば手数料1,000円、訴状などの郵送費約4,000円ですが、訴状の作成費などの弁護士費用、証人などの旅費全てが原則として敗訴者の負担になります。

フォーム制作費10万円と小額訴訟費用50万円(仮)とした場合、制作会社Bを選んだほうが良いことはいうまでもありません。

このように、委託者が理解した上でリスクもふまえ、きちんと受託会社を選ぶ必要があります。

また受託会社も知らないでは済まさず、理解していることをきちんと委託者へ説明し、価値を理解してもらう努力は必要かと思います。

 

SNSの発達に伴い、情報の拡散によるリスクは格段に高まっています。

上記のような商品1点での揉め事が命取りになることあります。

代理店在勤時代のEC事業者のお客様がある出来事により廃業へ。

改めて事業を再開し、生活が出来るほどの信頼を回復に3~5年もの月日がかかりました。

『法律は弱者を守る』と良く言われますが、それは相手方が不法行為者=悪、それをやっつける弱者(弁護士がサポート)=正義のドラマなどの話だと思っています。

『法律は弱者を守る』のではなく、『法律は知っている者を守る』ものだと思います。